北の国から '87初恋
中学三年生になった純は機械いじりが好きで「ペンチ」というあだ名で呼ばれていた。ある日、純は朽ちた風力発電機の前を通りかかり、そこで出会った大里れいに一目惚れする。その頃、草太は純の友人である広介の姉・アイコに会っていた。つららが結婚し、幸せに暮らしていることを聞き、安堵する草太。翌日、純は風力発電のことで電気屋・シンジュクを訪ねていた。その帰り、純とれいは偶然再会するが急な雨に降られ、平原に立つ大里家の納屋へ逃げ込む。濡れた服を脱ぎ、乾かしながられいと交わした会話の中で、純は東京の定時制高校進学という選択肢を知る。やがて大里家に出入りするようになった純は、れいの父・政吉の計らいで、風力発電機の修理に取り組み始め……。そんなある日、大雨で純の友人・チンタの家の畑が大きな被害を受ける。政吉は「化学肥料に頼ったからだ」と冷たく突き放し、純も同調する。そんな純に対し、五郎はつい、れいとの関係を咎めるような物言いをするのだった。純は、父に黙って少しずつ巣立ちの意志を固めていく。ところが五郎は純と東京の雪子の間で交わされた手紙を見つけ、純の気持ちを知ってしまう。そして五郎の誕生日、純はついに完成させた風力発電を披露する。草太やアイコたちも駆けつけている中、しかし五郎は自分に何の相談もしなかった純に「俺はそんなに頼りにならないか」と激しい感情をぶつける。思わず家を飛び出す純。追ってきた草太は「男は見栄で生きてるもんだ」と諭し、純も父に詫びるのだった。その夜、麓郷に霜が降りる。対策に追われる大里一家だが、政吉は誤って妻をコンテナの下敷きにしてしまい……。これが、秋の出来事だった。
冬。久々に再会した純とれいは「クリスマス、24日の晩、あの納屋で会おう」と約束する。さらに「卒業式が終わったら、札幌で見つけた天窓のある喫茶店に行こう」と。ところがその日、大里家は人知れず、町を去っていた。思い出の納屋へ向かった純が見つけたのは、一通の手紙と、カセットプレイヤーだった。再生ボタンを押すと、二人の思い出の曲、尾崎豊の「I LOVE YOU」が流れる。帰ろうとする純は、足跡に気付いた。愛おしそうに納屋を一度振り返った、れいの足跡。立ち尽くす純は東京へ行く意義を見失いかけていた。そんな純を一喝したのは迎えにきた螢だった。しかし螢はその後、優しく純の頭の雪を払う。家で待っていた五郎も不器用ながら、巣立とうとする純を応援するのだった。いよいよ出発の日。頼んでいた東京への長距離トラックがやって来る。父は息子の手をしっかりと握る。妹は兄の手を優しく握った。トラックの助手席に乗り込んだ純は、ヘッドホンで音楽を聞き始める。れいのことばかりが思い出されていた。と、不意にその回想が妨げられる。運転手の男が顎で差した先に、封筒があった。「しまっとけ」と男は言う。「 ピン札に泥がついてる。オマエの親父の手に付いていた泥だろう。おら受け取れん。お前の宝にしろ」。一万円札の泥に蘇る開拓の記憶。幼い日の思い出。純の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。トラックは、雪残る北海道を、東京へとひた走る――。
北の国から'87初恋
第3回芸術作品賞受賞作品。脚本に対して「第36回小学館文学賞」が贈られた。純は、ふとして出逢った少女に初恋をする。高校受験を前に純は彼女の意見に感動し、自分も東京へ行くことを決心する…。純(吉岡秀隆)は、近所の大きな農家の裏で、きれいな少女(横山めぐみ)に出会った。友達が、町のダンス教習所で「好きな子だ」といったあの子だ…とドキドキしてしまう。ある時、自転車のタイヤがはずれて困っていた彼女を見つけ、タイヤを直してあげていると、急に雨が降り出した。納屋に駆け込んだ2人は、ぬれた服を乾かしながら将来の話をする。シリーズの重要な転換点に位置する作品で「北の国から」シリーズの中でも屈指の傑作といわれる。数々の放送賞を独占しただけでなく刊行されたシナリオに対して文学賞も与えられるほどであった。純が彼女のいなくなった小屋で聴く尾崎豊の「アイラブユー」のせつなさ、ラストの父親との別れなど感動をよぶ場面が多い。当初、横山めぐみが演じた少女は沢田玉恵が演じる予定だったが引退したため変更されたという。また本作からレギュラー出演となった古本新之輔は『北の国から』第1シリーズのときの「純」役のオーディションで最終候補4名に残ったことがあるという。協力:富良野プリンスホテル、東亜国内航空、北海道富良野市、北海道文化放送、日産レンタリース。【出典:ドラマ本体のクレジット表示より採録(採録:古崎康成)】