61歳の抵抗
オヤジの歌†
- ぼくが生まれる三年前、オヤジは中大法科の通信学部へ願書を出していた。
- そのことを知ったのは、オヤジが死んで四年経った時だ。
- オヤジは旧制中学卒、僕は中卒、中卒と小馬鹿にしていた。
- オヤジは、志望動機に、大卒資格が欲しいのか問いかけに即座に否、
- 職業上の知識が欲しいと答えていた。
- 悪性腫瘍で財産目当てで集まっていた妹二人をしり目に自らの仕事の看板を
- 下ろし、颯爽とタクシーに乗り込み入院、3日目に西方浄土へ旅立ちました。
↓
- オヤジはある時いいました
- 俺の人生可もなく不可もなし
- たったひとつの天罰は
- それはおまえを産んだこと
- オヤジは離婚した時いいました
- 部屋でしょんぼりしてたぼくに
- 躰になじんでいたとても
- 忍の一文字、家取られるな
- オヤジはポスト争い真っしぐら
- 苦手な上司と麻雀ゲーム
- 上司まるごと飛行機事故で
- くたばって欲しいと吐き捨てた
- オヤジは死に向かいました
- 看板外しタクシー呼び病院へ
- 見守る家人に笑いつつ
- 俺はこれから死ぬだろう
- つくづくと今思います
- いまから前もこの先も
- 全くオヤジにかなわない
- 完全敗北認めます
馬川さん†
- 神経質そうな目、牛乳瓶の底のようなメガネレンズ。ぼくたちの研究室にふさわしい容貌だ。