#author("2025-09-08T09:37:37+09:00","","") #author("2025-09-08T10:24:18+09:00","","") [[TV]] *松本清張の『西海道談綺』 [#nd2a572c] #ref(s.jpg) #br 松本清張の西海道談綺(新聞ラテ欄表記タイトル…松本清張の西海道談綺 妻の密通は彼の運命を変えた!!日田天領に渦巻く巨悪の陰謀は!?愛憎かけめぐる一大伝奇)(西海道奇譚) 勝山藩士・惠之助(松平健)は上役・服部源左衛門と妻しづの不義を知り、源左衛門を斬り、しづもかつて働いていた鉱山に落として脱藩、天涯孤独な身の上となった。旅の途中、西国の小藩の窮地を救ったことから、茶坊主・宗全に拾われる。直参旗本の養子になった惠之助は、お山方の経験を買われ、公儀の密命を帯びて西国郡代手附として西海道(現在の九州)に向かう。 テレビ西日本開局25周年記念番組として制作された、松本清張原作の最後まで手に汗握る大型時代劇。幕府の威光届かぬ西国の地で、繰り広げられる隠し金山を巡る攻防。それに一人、挑んでいくのは松平健演じる惠之助! 大掛かりな九州ロケ(荒涼とした九州の秘境を映像化)が惠之助のドラマを盛り上げ、ラストの金山爆破シーンは圧巻の一言。~ 【以上、時代劇専門チャンネル広報資料より引用】【その他のクレジット表示】~ 協力:大分県、大分県観光協会、TDA 東亜国内航空。~ 【出典:ドラマ本体のクレジット表示より採録(採録:古崎康成(EDクレジットのみ))】 -TNC 放送曜日 金 放送期間 1983/09/30~1983/09/30 放送時間 20:03-22:48 放送回数 1 回 連続/単発 単発 番組名 秋の時代劇特別企画 #ref(s2.jpg) #ref(s3.jpg) #br -出演 松平健、古手川祐子、風祭ゆき、中村敦夫、丹波哲郎、宮内洋、小泉博、藤木悠、島田 順司、苅谷俊介、浜田寅彦、三波豊和、信 欣三、中村伸郎、堀礼文、狩野勝行、小沢 象、軽部仁、川口節子、(ナレーター:平光淳之助、) -脚本 古田求 -プロデューサ 古屋 克征、能村 庸一、兼川 晋、野村芳太郎、(スチール:吉田 元芳、松原 義昭) -演出 (監督:児玉進)(助監督:小俣堯、吉原 勲)(演出助手:新村良二、舘治佳)(殺陣師:宇仁 貫三) -原作 松本 清張 -局系列 FNN -制作会社 (制作:国際放映、霧プロダクション、テレビ西日本(TNC)、フジテレビ(CX)) -制作 (作品担当:平木稔)(制作主任:西島 孝恒)(制作進行:坂井 淳一) -音楽 津島 利章、(整音:坂田 通俊)(選曲:小林 和夫)(効果:宮田音響) -撮影技術 内海 正治、(照明:金井 道朗)(録音:吉澤 昭一)(編集:平木 康雄)(撮影助手:園田 勝秀、中原 泰広、菅原 正)(照明助手:加藤 博美、松井 博)(録音助手:堀江 二郎、間條 秀明)(編集助手:沢村 宣人)(ネガ編集:井上 孝子)(東京現像所) -美術 鳥居塚誠一、(美術助手:和田 洋)(装飾:小野 善憲)(小道具:板村 一彦)(セット付:福沢 勝広)(大道具:大久保欽司)(美粧:立川 利子、平野 勝由)(衣装:千代田圭介)(タイトル:兵頭タイトル)(刺青:霞 涼二(クレジット表示では、霞 淳二、と表記))(美建興業、京都衣裳、川口カツラ(川口かつら)、高津装飾美術) *Add [#g8e4a464] 《プロローグ》 西海道とは現在の九州である 当時九州は幕府の威光も遠く 群雄はいまだにその牙を失わない 謎と伝説に満ちた未踏の地であった このドラマは数奇な運命の糸に操られて 西海道に足を踏み入れた一人の男の 波乱の物語である 《ストーリー》 文化 文政の時代 作州(岡山県) 勝山藩の山方(鉱山)の藩士 伊丹恵之助(松平健)は 上司である用人 服部源左衛門(浜田寅彦)の仲人で半年前に結婚した妻(風祭ゆき)が 実は源左衛門の妾で 今もその関係が続いていることを知り 騙された! 二人とも許せない! とその日宿直を早退し 屋敷に取って返し 源左衛門を山中に待ち伏せして「刀を抜け」と迫った ―― これより先は ネタバレに注意 ―― 「わしを斬ったらどういうことになるか 分っておるのか」と上司の威厳を盾にうろたえる源左衛門に 恵之助は「覚悟はできております」と頷き 容赦なく斬りかかった その足で自宅に戻り 妻 志津に「逐電」するからと伝え 耳陶山北麓の小童谷銅鉱に連れ出して 廃坑の中の竪穴へ突き落とした そして妻の持ち物すべてを燃やしたが その様子を見ている者がいた 凶状持ちとなった恵之助はあてのない旅へ 途中 木曾 奈良井宿(長野県)で 参勤交代中の小藩 福知山 森藩(京都府)の一行が大国 加賀藩(石川県)一行の我儘に苦悩しているところに遭遇し 町民の話を聞いて 一計を案じた恵之助は 土下座をしている小藩の家老 佐野廣右衛門(信 欣三)の傍へ寄り「しばらくご辛抱下さい やがて神風が吹いて参ります」と告げ 急いで藪原へ向かった その藪原には「お茶壺道中」が滞在していた その厳重な警備を突破すると現れたのは茶壺組頭 北条宗全(丹波哲郎)「どうか お茶壺宰領殿の力を貸して頂きたい」と直訴すると その強い信念と行動力に驚かされた宗全は「お茶壺が道具に使われたのは初めてじゃ」とあきれ顔も 多勢の部下を引き連れ 恵之助を援護 森藩の危機を回避し 家老(信 欣三)の切腹も免れることになった 宗全は直感した この男は役に立つ これからも何かやってくれるくれるに違いない と通行手形もない 素性も分からない恵之助に「どうだ 江戸に来んか わしはあんたが気に入った」と救いの手を差し伸べた 行く当てのない凶状持ちの恵之助にとってこれは渡りに舟 道中一行に紛れ 宗全を頼りに未踏の都 江戸へ向かった・・・ 【逐電】ちくでん 失踪 逃亡 逃げ去って行方を眩ますこと 【お先触れ】おさきぶれ 室町 江戸時代 役人や貴人が旅行する際 あらかじめ沿道の宿駅に人馬の継ぎ立てや休泊などを準備させること またはその命令書 前触れ 【福知山 森藩】 3万石の小藩 参勤交代で 塩尻から奈良井宿に向かう途中 加賀藩が奈良井宿から出発しないため行き場所を失う 【加賀藩】 加賀100万石の威光を盾に 奈良井宿から予定通り出立することを拒んでいる 【薮原】やぶはら 将軍に届けるお茶を運ぶ「お茶壺道中」が滞在している宿場 【お茶壺道中】 江戸時代に幕府が将軍家へ献上する宇治茶を運ぶ行列で 権威を示すための行事 将軍の威光により絶大な権威を誇る 加賀藩よりも遥かに格上 【北条宗全】(丹波哲郎) 表御坊主組頭 茶坊主として江戸城内で各地の大名の世話をする立場から絶大な権力を持っていた 【天下の静謐】てんかのせいひつ 天皇の命令に従って将軍が逆賊を討伐し 全国が平和な状況を指す 単に武力による鎮圧ではなく 政治的な安定と社会秩序の維持 国民の平和な生活を意味する概念 ・原作 松本清張『西海道段談綺』 ところどころ 難解な語句が出てくるので字幕を付けました これなら難聴の方にもお分かり頂けるかと思いまして また本作品は1983年製作 ---- 《ストーリー》 江戸に着いた恵之助(松平健)は 宗全(丹波哲郎)から「面白ところに案内しよう」と誘われ 付いて行くとそこは博打場だった その途中上意討ちに遭う 追っ手は すでに江戸にまで及んでいたが 持ち前の剣術で追い払うと そこに現れたのは柳橋の船宿「上総屋」の芸妓 梅香(おえん、古手川祐子) 初対面だったが 互いにどこか惹かれ合うものを感じていた ―― これより先は ネタバレに注意 ―― その日の宗全はツキがなかった 備前屋(小沢象)との勝負に負けて100両の手持ちが8両になってしまい ならばと 駄目元で博打を知らない恵之助に勝負を託した するとここから流れが一変し 最後は備前屋との差し勝負にも勝って まさかの捲り 宗全の懐に元手の倍のカネが転がり込んできた これで上機嫌となった宗全は おえんに「あいつは天涯孤な身の上だ しばし慰めてやれ」と申し付け 一夜を共にした恵之助だったが おえんは自分が凶状持ちであることを知らない その後ろめたさもあって 今一歩近付けない おえんはそれを歯がゆいと感じていた 翌日 恵之助は宗全から養子縁組を持ち掛けられた 相手は180石 小普請組 太田半左衛門 持参金は400両だが博打で勝った200両に 差額200両は宗全が出すという 数日後 勘定奉行 長谷川和泉守より辞令の書付けを手渡された恵之助は 小普請組旗本 その姓も太田へと変わり これにより凶状持ちの伊丹恵之助という名はこの世から消え去った 宗全には狙いがあった これはご公儀のため 是非とも山に詳しい恵之助の力が借りたいと 勤務地は西海道 豊後の日田地域で 郡代屋敷に出役して殺害された手付鈴木の疑惑を晴らすこと もう一つは 長崎のオランダ商人たちに我が国の金が流れているらしいが ご公儀の目の届かない隠し金山があるに違いない 殺された鈴木は 豊前豊後あたりと目星を付けたようだが それは一体どこなのか 恵之助は覚悟を決めて 若党嘉助(三波豊和)とともに大阪から瀬戸内海を経て遠路九州へ向かった 途中 旅の垢を落そうと湯山(熊本県)の露天風呂で体を休めていると 昔馴染みの振矩師 甚兵衛(中村敦夫)にばったり出会い 恵之助は 訳あってもう勝山藩士ではないと漏らすと 甚兵衛もまた ここへは仕事ではなく湯治のために来ていると打ち明け 恵之助が部屋に戻ると 廊下から甚兵衛の座敷に白髪の女の姿が見えた ようやく目的地の西国郡代に着いた恵之助は 上司となる日田郡代の高林伝七郎(小泉博)を訪れ 恵之助と同役の公事方手付けの向井平三郎(宮内洋) 直属の部下となる浜島孝介(島田順司)らを紹介され 早速 日田七軒衆(札差)から招待があるようだと告げられたが それよりも鈴木が殺された四日市に行ってみたいと言ったとたんに場の空気が一変した そしてその道案内として公事方書役 村上平八(狩野勝行)が自ら名乗り出た 【養子縁組】ようしえんぐみ 江戸時代における養子縁組は 家制度の維持 家業の承継 相続などの目的で広く行われていた 【振矩師】ふりがねし 鉱山の間切 切山 煙貫きなどの工事に当たる 鉱山付測量技術者 【札差】ふださし 江戸時代に幕府から旗本 御家人に支給される米の仲介を業とした者 【若党】わかとう 江戸時代 足軽よりも上位の小身の従者 ---- 《ストーリー》 日田郡代 公事方手付けとなった恵之助は 部下の公事方書役 村上平八(狩野勝行)の案内で 前任者 鈴木九郎右衛門が殺害された現場を確認するため 日田から豊前四日市に向かった その途中 森の中に ほら貝の音が鳴り響き「宇佐石体権現」という上りを持った山伏集団の行列が現れ 数人がかりで重そうにつづらを担いでいた ―― これより先は ネタバレに注意 ―― 森藩の城下に入り 恵之助が馬継ぎをしていると 奈良井宿で手助けした佐野寛右衛門が出迎えてくれて「もしお困りになりましたら 老骨の命に代えてお力添えを致します」と言葉をかけてくれた 一服した後 村上はこの先の道中は小者に任せて 自分は陣屋の準備もあるので一足先に四日市に参りますと言い残し 馬を走らせた 四日市陣屋は手代の吉田孫六(堀礼文)が取り仕切っていた 翌日 殺害現場を案内した吉田は 殺された鈴木は鎌で背中をめった切りにされていたと ならば下手人は百姓か いや安易にそうとも言えないが その直後 嘉助が「だっだっ!旦那っ!」と大声で叫んだ 急いで駆け付けてみると 昨日一足先に出発したはずの村上の死体がそこに 無残にも首を切られ 手には粗金を握っていて 犠牲者はこれで二人目となった 数日後 恵之助は 屋形船で日田七軒衆と顔合わせをした その席で浜島孝介(島田順司)から「代官所と掛屋の旦那衆とは持ちつ持たれつでいいじゃありませんか?」と暗に同意を求められ 「日田の掛屋は江戸にも付き合いがありまして 気まぐれな夜風が隅田川の匂いを運んでくることもあります」と言われ そのほうへ目を向けると 向いの舟には何とおえん(古手川祐子)が乗っていた おえんは一人旅ではなく 以前 恵之助が 柳橋の上総屋で博打勝負をした備前屋(小沢象)には 日田の掛屋とも付き合いがあり 今度も取引があるというのでご一緒させて頂いたという その話を聞いて あの備前屋が 遠く日田の地にまで商売の手を伸ばしていたのかと 見えない糸で繋がれた組織を見るような思いがした 恵之助は 殺された村上が握っていた粗金を調べるため 肥後峯尾鉱山に 旧知の振矩師 甚兵衛(中村敦夫)を訪ねた すると これは花吹黄金 混じり気なしの本物の金だと言う 何故それを村上が握っていたのか そこが知りたい これは私の職務だ 力を貸してくれ と恵之助が訴えると 甚兵衛もまた 今は身動きがとれない よんどころのない事情で一人預かっているのでと 申し訳なさそうに それは湯山の温泉宿で見掛けたあの女のことか ならば心配するな 手助けしてくれる人がいる と恵之助が助け船を出した しばらくして浜島(島田順司)から 鈴木 村上を殺害した容疑者を検挙したとの報告があり 捕らえたのは四日市陣屋の吉田で 犯人は百姓の源次 金を持っていそうな武家を鎌で殺した それが鈴木であり 村上であったと 吟味をしたのは向井(宮内洋)で 一切の書類は整っている 陣屋に手落ちはないとの報告に 何かでき過ぎているとは思いませんか? と浜島は納得のいかない様子 恵之助はすぐに嘉助を呼んで 犯人の源次を捕らえた現場に出向いて この一件の裏を取ってくれと頼んだ 甚兵衛(中村敦夫)は 恵之助の計らいで 連れてきたお島(風祭ゆき)をおえんに任せて 自分は恵之助の手助けをしなくちゃならないので と言い残してその場を去り 嘉助は津江筋へ事件調査に向かった しかし下手人らしき者を見たという人はおらず 西山には 時々どこからか人が来て死人を埋めて帰るという噂もあり 多い時で5,6人 よく山伏のほら貝の音が聞こえてくるという 結局 嘉助は何の手掛かりも得られないまま帰途に着く羽目となり 不運にも途中の山道で落石に遭い 川へ転落して流されてしまう 一方 おえんは お島の世話をするうちに向井の目に留まり しつこく迫られるが 秀観(刈谷俊介)に見つかり 如何にも性急過ぎると 格下からたしなめられる 宿へ戻ったおえんは お島から「太田恵之助という方と一緒になるんですか」と聞かれ「分かりません でも江戸に帰ったら あと3年経ったら 私はそう信じています」と嬉しそうに答えると しだいにお島の表情が曇ってきた おえんはまだ お島の本当の姿を知らないようだ 【つづら】 衣服を入れる編みかご ツヅラフジで編む 竹やひのきの薄板を編み 紙をはったのもある 【馬継ぎ】うまつぎ 宿場で馬を乗り換えること またはその場所 江戸時代には、宿場に駅馬(継ぎ馬)が用意され 旅人が乗り継いで移動していた 【振矩師】ふりがねし 鉱山の間切 切山 煙貫きなどの工事に当たる 鉱山付測量技術者 ---- 《ストーリー》 秀観(刈谷俊介)率いる山伏集団は 悪霊を調伏し邪霊を焼滅して進ぜようと村に護摩を焚いた 燃え盛る炎に 村人たちは怯え「おやめ下さい」と止めに入ったが それでも止めなかった 実は 騒ぎに乗じておえん(古手川祐子)を連れ出し 恵之助をおびき出すという作戦だった 驚いた向井(宮内洋)は 秀観に「一体何の真似だ」と怒鳴り散らし 頭から水をかぶり おえんを救出しようと炎の中に飛び込んだ ―― これより先は ネタバレに注意 ―― 翌日嘉助(三波豊和)は焼け跡に おえんとお島の消息を尋ねたが 誰も知らないという 嘉助の報告を聞いて恵之助は 西山に死体を埋めに来る連中とは 山伏集団ではないか 殺された村上平八が異常な行動をとったのも山伏集団を目撃してから しかも手には粗金を握っていた 埋められた死体は おそらく鉱山の水替え人足 ならば鉱毒の影響で多数の死者が出ても不思議ではない 恵之助と村上が見たという山伏集団が背負っていたつづらというのも中身は花吹黄金 それを背負って 勧進の旅と称して諸国を回れば 金を売りさばくのも容易い 鈴木と村上はその秘密を嗅ぎつけたので次々と殺害されたのではないか 恵之助は 嘉助に 森藩の佐野廣右衛門殿(信欣三)を尋ねてくれと告げ 甚兵衛(中村敦夫)とともに山伏集団のねぐらの藤蔵谷へ向かった 坑内に入ると書付があり 見覚えのあるかんざしが添えられていた それは志津が付けていたもの 書付には「我らと会いたくば 峠の石地蔵でこの笛を鳴らせ」とあった 甚兵衛は恵之助に詫びた 以前小童谷の銅山で 恵之助が志津の持ち物を燃やしていたところを見てしまい その焼け跡の中のかんざしを見て坑内に入り 倒れている志津を助けてしまった そしておえんに看病を頼んだお島が 実は志津で おえんに対して女の嫉妬の炎が燃え上がり 仕返しをするために山伏集団に寝返ったのではと その頃嘉助は 廣右衛門に会い すぐにこの手紙を届けてくれと手渡されたが その途中 山伏集団に捕らえられてしまう 一方 石地蔵で 笛を鳴らして様子を伺っていた二人は 土中に集まった金銀の精が 山頂に光渡る現象を目の当たりにして これこそ隠し金山の証し 眼下には 山伏と人足たちが樽を背負い その先頭に日田七軒衆の一人千原屋が 後方には頭巾をした侍の姿が見えた 手代の吉田(堀礼文)は嘉助が懐に隠していた手紙を見て愕然とした それは彦山の山伏への依頼状だった 彼らは僧坊3,000 戦国大名と肩を並べるほどの山伏集団で 宇佐石体権現などとても敵わない最強組織だった 一方 坑内へ押し込められた嘉助は 奥から人の気配を感じた ふと見るとそれは向井だった 火傷で負傷して見るも無残な姿から「おれは 秀観や吉田や浜島に騙されていた 日田七軒衆と代官所ぐるみで甘い汁を 九州だけではない 備前屋を通じて遠く江戸にまで売りさばいておる」と 息も絶え絶え その内幕を暴露した 【調伏】ちょうぶく 仏教用語で 自己の心身を制御し 悪を排除したり 怨霊や敵を降伏させたりする行為 【尋ねる】たずねる 問うこと 尋問すること 聞きたすこと を意味する また所在のわからないものを探したり 物事の根源を調べたり 人に質問したりする際にも使われる ---- 《ストーリー》 山伏たちが運んできた樽の中身は 千原屋 備前屋自慢の南蛮渡来の爆薬だった その威力を目の当たりにして これさえあればいかに固い岩盤も一息に突き破れる 金の採掘量も一気に3倍は増えようぞと浜島(島田順司)と吉田(堀礼文)はほくそ笑んだ 山伏集団に寝返ったお島(風祭ゆき)は いずれこの洞窟にも恵之助がやって来るに違いないと おえん(古手川祐子)を縄で縛り上げ 秀観とともに待ち構えていた お島は 恵之助の心を奪ったおえんを妬ましく思い 野良猫 泥棒猫 盛りのついた猫となじり倒し「思う存分のことをしてやってくだされ そのたぎる煩悩を思いっきりぶつけてくだされ」と秀観を急き立てた 秀観(刈谷俊介)は お島の言いなりに おえんを洞窟奥へ連れて行き 宙づりににして井の下に吊り下げた お島は「美しい女が苦しみもがく顔や姿は風情があって色気があって 同じ女の私でさえ思っただけで頭が妙になる 闇地獄にぶら下げてこの黒髪が真っ白になるくらいの恐ろしさを味わせてやりたい」とおえんに迫った 一方 恵之助は「おえんもお島もこの山のどこかにいる 助けを呼んでいてはおえんの命が危ない 俺は斬り込むぞ」と甚兵衛(中村敦夫)に告げると「自分も一緒に参ります」と恵之助の後を追った 中腹にある山小屋を覗くと 中からうめき声が聞こえた 見ると足枷を付けられた男たちが横たわっていて 彼らが甚兵衛の言う 水替え人足だった 遠くの洞窟入口に浜島と吉田がやってきて 秀観を探していた 恵之助は おえんもあそこにいるに違いないと中に入っていくと 宙づりにされたおえんに お島が二年前恵之助から受けた闇地獄の苦しみを訴えていた それを見て恵之助は 志津が生きていたことを初めて知り 志津に「おえんに罪はない 恨むならこの私を恨め」と叫んだが 志津もまた「もちろんだ でもお前の惚れたこの女も憎い 死ね 燃えて真っ黒になって死ね」とやり返した 甚兵衛は一人山小屋に向い 扉をこじ開けて水替え人足たちを解放した その足で恵之助のいる洞窟へ入ると 中からお志津の怒鳴り声が聞こえてきた 止めに入ると「甚兵衛 何故 あのとき私を助けた なぜ 私を死なせてくれなかった 私のからだが欲しかったからなのか 今となればあの捨て山でお前に助けられたことが悔しい」と泣き叫んだ 甚兵衛は「お志津さん 自分は端からそんなつもりじゃなかった あんたの体を治して 湯治場に連れて行って宿で一緒に暮らすうちに 信じておくんなさいよ」と必死に訴えた やがて洞窟内に「ううっ ううっ」というお志津の泣き声が響き渡った 洞窟の外で大きな爆発音がした 甚兵衛は「二人は自分に任せて 旦那は大事なお務めを」と恵之助を急き立てた「頼んだぞ甚兵衛 私は必ず戻る」と告げて洞窟を出ると水替え人足たちが山伏を相手に必死に抵抗していた 恵之助は 斬りかかってきた千原屋を倒し 次に向かってきた吉田の鎖鎌を見て 村上と鈴木を鎌で殺害したのは貴様だったのかと ようやく気が付いた 突然 山間に銃声が鳴り響いた そして「死にたい奴は出ろ!」と浜島が叫ぶと 恵之助が現れ「貴様らはご禁制の隠し金山の採掘に加担し 私欲のために売りさばき 暴利をむさぼった 覚悟いたせ!」と叫んだ 浜島が「笑止な 貴様一人で何ができる 返り討ちだ」と恵之助めがけて引き金を引くと 銃弾は危うく恵之助の肩をかすめた 一方 洞窟の中でおえんを背負い 出口を探していた甚兵衛は 嘉助と偶然出会い 合流した と突然 洞窟の外で大きなほら貝の音が鳴り響き 見ると周囲の山々から山伏たちが次々と現れ たちまちのうちに山を包囲してしまった 彼らは彦山の修験道の一団 そしてその中心には あの奈良井宿で恵之助が手助けをした森藩家老 佐野廣右衛門(信 欣三)が立っていた 廣右衛門は 嘉助に渡した手紙が届いてないことに気付き 自ら彦山へ助けを求め 彼らを引き連れてきてくれたのだ そして大声で「太田殿 過日の大恩 今こそ!」と周囲の山々に響き渡るようなはつらつとした大きな声で叫んだ それを見て思わず恵之助の頬が緩んだ やがて安堵の表情に変わり 多勢に無勢と圧倒的に劣勢に立たされていた恵之助に数千の応援が付いた思い 瞬く間に優勢側へと変わっていった 最早これまでと 覚悟を決めた浜島と秀観は 洞窟内に爆薬を仕掛けさせ「太田恵之助 貴様の勝ちだ 俺は死ぬ! 金山と運命を共にする」と叫ぶと「そんな馬鹿な話はない」と差出る備前屋 「宝の山をむざむざとつぶす気か この山から出る金は私の商売の元手にするのみではない 勘定奉行の長谷川和泉守さまが 政敵 北条宗全(丹波哲郎)の勢力と拮抗するため…」と思わず口走ってしまい 往生際が悪いと秀観に斬り捨てられる 浜島が「我らは爆薬に火を付けて死ぬ! 自らの手で芝居の幕を下ろすんだ!」と叫んだ と その後ろにいた秀観が力なく倒れ込んた そこには血みどろになった向井がいた 洞窟奥から這い出してきて秀観を刺したのだ さらに返す刀で浜島に「よくも今までこのおれをこけにしてくれたな おれはこのままでは死なん ただでは死なん!」と叫び 二人刺し合いの末 相打ちで倒れるという壮絶な幕切れとなった おえんの身を案じた恵之助は 爆煙の中 洞窟に入り 奥にいた嘉助とおえんを救出した しかし甚兵衛はおらず 奥のほうにぼんやりと人影が それが甚兵衛だった 「自分の務めもこれで終ります お島は自分が仏にしてやりました これからお島のそばに行ってやります 振矩師が金山に抱かれて死ぬなら本望でございます お島も自分が横に寝てやればちょっとは喜んでくれると思います 旦那 いろいろお世話になりました どうかお達者で」と深々と頭を下げ 白煙の奥へ 「甚兵衛 甚兵衛!」と叫んだが 彼はもう帰ってこなかった 恵之助にとって お志津も甚兵衛もこれが最期の別れとなってしまった 洞窟の外に出ると爆発はまだ続いており 恵之助は 嘉助とともに必死でおえんを抱きしめ 隠し金山を後に 懸命に走り出した・・・ 《エピローグ》 歴代の幕府勘定奉行で自決したのは 後にも先にも長谷川和泉守 政長ただ一人である 腹を切った理由は 幕府関係のどの文書にも載っていない (ちなみに長谷川和泉守とは 恵之助に養子縁組の辞令を交付した奉行で第2話 13:00 に登場しています) ・原作は 松本清張の長編伝奇小説で『週刊文春』(1971年~1976年)に連載され 単行本は全5巻 文藝春秋より刊行されました 尚 本作品は1983年製作のため 音声に歪があり