非常識刑法講座

公示の原則とは

日本の民法は意思主義を採用しているため、当事者の意思表示(合意)によって物権変動は生じる。この意思によって生じた目に見えない物権変動について、外界から認識できるように方法で公示をしなければならないという考え方を公示の原則という。 物権とは物の排他的な支配を可能にする強力な権利であり、物に生じた権利の変動を外界からでも認識できるように公示しないと、取引などに入る第三者にとって不都合であるためである。 公示の方法 不動産の物権変動があったことを公示するには登記(177条)を、動産の物権変動があったことを公示するには引渡しをすればよい。

意志主義・対抗要件主義との関係 上述のように公示の方法と対抗要件が同じであるが、両者の関係はどうなるのか。 意志主義 物権変動は、当事者の意思によって生じる 公示の原則 物権変動は、外界から認識できるよう公示しなければならない 対抗要件主義 物権変動は、対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない 日本の民法は「意思主義」をとりながらも、「公示の原則」の要請も満たすべく公示を促進するために、公示に対抗力を付与した「対抗要件主義」を取り入れている。「公示」はあくまで外部に権利変動の状態を示す方法であり、「対抗要件は」外部に権利変動を主張(対抗)するために必要な要件である。 参考:形式主義との関係 日本やフランスのような意思主義の場合、物権変動は当事者の意思のみで生じる。公示や対抗要件はあくまで対外的な問題であるので、公示がなくとも当事者間の物権変動の効力まで否定されない。 他方ドイツ法が採用している形式主義では、物権変動が生じるには当事者の意思に加えて公示(対抗要件)も必要としている。よって公示がされていないと、物権変動自体生じないことになる。

公信の原則・公信力とは

以上のように、登記や引渡しなどの公示は、第三者に対して物権の状態を示すものであるから、第三者は公示どおりの物権変動があったのだろうと期待する。こういった第三者の公示への期待・信頼を保護するため、たとえ公示が実際の権利状態と異なる場合でも、公示どおりの物権変動があったことにしようと考え方を公信の原則という。公信の原則が適用されるような公示には「公信力がある」ともいわれる。 登記の公信力 不動産の物権変動における「登記」には公信力はない。したがって、虚実の登記を信頼した者は原則的には保護されないことになる。 ただし、第三者が善意(無過失)で虚偽の登記を信頼した場合は、通謀虚偽表示に関する94条2項を類推適用して保護される可能性もある(権利外観法理)。 引渡しの公信力 動産の物権変動における「引渡し」には公信力がある。その民法上の表れが192条の即時取得(善意取得)制度である。したがって、無権利者Aが占有する動産を買ったBが善意・無過失であれば、Bは保護されることになる。(詳しくは「即時取得」をご覧ください)

第192条(即時取得) 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

まとめと差異の比較

公示の原則と公信の原則の保護する信頼 公示の原則 公信の原則 物権変動は、外界から認識できるよう公示しなければならない 不動産では登記、動産では引渡しが公示方法である 公示された実体のない物権変動を信頼した者のために、物権変動が存在したことにする 不動産登記には公信力はない。動産には公信力がある(即時取得) 物権変動が起こっていないという期待・信頼を保護する(消極的信頼) 物権変動が起こったという期待・信頼を保護する(積極的信頼)


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Last-modified: 2023-12-07 (木) 01:48:38